新規事業の初期、企画段階において、狙う市場は決まっているが、どこから手を付けたらよいか分からない、というケースがあるかと思います。例えば、自動運転とか、ロボティクスとか、医療分野など、成長市場を狙うことは決まっているが、自社との接点はどこにあるのか、という問題です。
おそらく、自社の能力や技術についてはよくご存知でしょう。分からないのは、ターゲットとする市場、業界、技術において、「課題」は何かという点かと思います。課題の切り口さえ分かれば、自社の能力をどのように適用できそうか、どこの誰よりも自分たちがいちばんよく分かっている、ということではないでしょうか。
そこで今回は、新規事業の企画段階で、素早くターゲット市場の課題を抽出する情報分析について考えてみたいと思います。
新規事業創出のための情報分析とは
新規事業創出のための情報分析のポイントは、ターゲット市場を「課題」によってセグメントすることです。そしてこの情報分析は、複雑にしてはいけないのです。なぜなら、新規事業創出の過程では、シーズとニーズを行ったり来たりして収束へ向かうわけですが、情報分析が複雑になってしまうと、この過程に入る前に企画倒れになってしまいます。間違っても、シーズとニーズをクロス集計して、情報分析からアイデアを出そうなどと考えないことです。
さて、ターゲット市場を「課題」によって素早くシンプルにセグメントする方法ですが、最近とくに使いやすくなった「機械学習」を利用します。ターゲット市場に関するニュース記事や、技術文献の要約部分を収集し、これに「トピック抽出」を適用します。トピック抽出とは、機械学習を使って記事を分類する手法です。この手法の良い点は、たとえ数千の記事があっても、予め指定した数のトピックに仕分けしてくれます。そして、各トピックの特徴を示すキーワードも提示してくれます(キーワードの数も予め指定できる)。
新規事業の企画段階でよく議論になるのが、ニーズが先かシーズが先か、という問題です。マーケットが先か、技術が先か、と言い換えてもいいかもしれません。これは鶏と卵で、永遠に答えは出ないのですが、確実に言えることは、どちらかに決めないと先へ進めないということです。多くのケースで、ここで止まってしまっています。どちらからのアプローチでも、いくつか方法はあるのですが、大事なのは「決める」ことです。上記のようにまずマーケット側を明らかにし、次にシーズ側から検討し、出てきた提案をマーケットへぶつけていく、これを繰り返して新規事業へ収束していく、という流れです。
ロボティクス分野の課題(英文)
では実際にトピック抽出をしてみましょう。情報ソースは前回に引き続き、ロボティクス分野(手術用ロボット)を扱いますが、新規事業を想定し最先端である米国の技術情報約2200件を対象にします。また機械学習のエンジンとして、以前にもご紹介したKNIMEを使います。KNIMEには、トピック抽出のサンプルワークフローが登録されていますので、これを流用します。詳しい設定は割愛しますが、今回は、トピック数を16、キーワードを5に設定しました。
実行結果がこちらのリストです。要約部分をトピック抽出にかけています。これだけの英文を2200件も読んだとしたら、たいへんな作業量になります。右端の列に、トピックIDが付いています。16トピックのうちのどれに該当するかを示しています。つまり、2200件の情報をわずか16のトピックに仕分けしてくれています。
そしてこちらが、各トピックに紐付いているキーワード(5つ)です。例えば、注射針のガイド、アームの固定、シャフト、アクチュエーター、骨の位置、器具のアセンブリ、画像の表示、など、各トピックの特徴が概ね想像できます。対象分野の主要な課題を示していると考えられます。
戦略系の情報分析にこそ機械学習が有効
いかがでしたでしょうか。知財などの管理系の業務では、抜けや漏れが致命傷になりますので、機械学習はあまり向いてないかもしれません。しかしながら、膨大な情報から、枝葉を取り除いて重要なメッセージを引き出す機械学習の利点は、大きな方向性を出していく戦略系の業務でこそ生きてくるように思います。様々な環境が整って、機械学習やAIが身近になってきた今、戦略構築の場面でも積極的に取り入れていくタイミングではないでしょうか。
今回の分析は、情報分析ツール「Quark Apps」と外部ツールKNIMEを連携しています。実際には、Quark Appsのバックグランドで処理されますので、お客様がKNIMEを意識することはありません。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。丁寧にご説明させていただきます。お問い合わせ