イノベーションのステップ1「課題発見」のための情報分析

大企業発のイノベーションがなかなか起こらない理由は何でしょうか?

1つには、企業規模が大きくなればなるほど、エンドユーザから遠ざかってしまう、ということが考えられます。今後、イノベーションにおけるテクノロジーの重要性が増す中、とくに大手の研究開発部署に所属する皆様は、エンドユーザとどれだけコミュニケーションを取っているでしょうか。

企業活動が細分化され、開発テーマが複雑化されていれば、なおさら遠くなっていまうのではないかと思います。エンドユーザあるいはその業界が何を求めているのか、どのような課題があるかについて、開発現場でも認識を深めておきたいというニーズは高まっています。

そこで今回は、簡単な情報分析から、対象とする業界における主要な課題を発見するための方法について、考えてみたいと思います。

「課題発見」のための情報分析とは

課題発見のための情報分析のポイントは、「抽象化」です。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏のあまりにも有名な言葉「Connecting The Dots」。「点と点をつなげ」ということですが、異なる点がつながるためには、そこに問題意識があるはずです。問題意識とは、解決すべき課題について、常に意識している状態です。課題を発見し、それを常に頭の隅に置いておく必要があります。記憶量には限界がありますから、個別の事象(データ)を膨大に記憶しておくのは不可能です。ですので、課題、例えば顧客の課題についての情報を、頭の隅に置いておける程度に「抽象化」する必要があるのです。

そうは言っても、目の前の課題が山積みで、その他を考える余裕がない、というご意見もあるかもしれません。しかしながら、目の前の課題は、そのままエンドユーザの課題でしょうか。自分の課題=エンドユーザの課題では、必ずしもないはずです。自分の課題はそもそも課題ではないかもしれません。エンドユーザの課題に照らすことで、自分の課題の原因そのものを消し去ることができるかもしれないのです。そのような検討ができる開発体制や組織のあり方が、イノベーションに不可欠と言えるでしょう。そしてその第一ステップとして、課題の発見が重要になってきます。

ロボティクス分野の課題とは

例としてロボティクス分野の課題について考えてみます。より具体的に、手術用ロボットにフォーカスしてみます。大抵の場合、論文などの技術情報には「要約」があります。要約には、その技術の背景や特徴が端的に記されているので、エンドユーザの課題を抽出するのに適した情報ソースです。この要約部分から、特徴的なワードを取り出し、分析をしていきます。

以下は、約300件の手術用ロボットに関する技術情報から、具体的に取り出したワードの例です。特殊な計算(TFIDF)をして重み付けをし、重要度順に、前からカンマ区切りで並べています。

キーワードの抽出

以上の情報を元に、ペアで出現する(共起する)ワードをつなげ、可視化したものがこちらです。共起するワードの種類が多いワードほど、大きな丸で目立つようにしています。つまり、大きな丸のワードは、様々なワードと一緒に出現するので、中心的なトピックを示していると考えられます。しかし、かなり複雑で、抽象化にはほど遠い状態です。もうひと工夫してみましょう。

共起ネットワーク

こちらは、先程のネットワーク図に少し手を入れています。まず、弱いつながりを切っています。弱いつながりというのは、例えば、分析対象の中で一度しかペアで出現していないつながりです。その後、各つながりの密度を元に、全体をクラスタリングしています。つながりの密度をもとに、全ワードを少数の塊に分けたということです。いくつか見てみると・・・

共起ネットワークのクラスタリング

情報の羅列から、抽象化した塊へ

今回は、情報の羅列から、少数の抽象化された塊を切り出し、これをイノベーションの第一ステップである「課題発見」に利用する試みでした。イノベーティブなアイデアを出すのも人、その製品やサービスを選択するのも人、最終的に人が関与する以上、「情報の抽象度を上げる」ことは、情報分析を意味あるものにするための鍵ではないかと考えています。

今回は共起ネットワークという手法を使いました。この他、弊社では、機械学習をつかった「トピックモデル」などにも着手しており、抽象化に関する開発を継続していきます。

今回の分析は、情報分析ツール「Quark Apps」を使っています。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。丁寧にご説明させていただきます。お問い合わせ