やや古い情報ですが、重要技術の判別指標について、経済産業研究所から論文が出ています。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/06j018.pdf
技術文献が持っているいくつかのパラメータと、過去に専門家が評価した重要度とを比較して、どのパラメータが効いているかを定量的に検証しています。検証の結果、従来から実証されている「被引用数」の他、「発明者の数」も重要度を示すパラメータの一つであるとしています。
そこで今回は、重要技術の判別と、その注意点についてご紹介します。
重要技術を判別する方法
結論から申しますと、「発明者の数」で判別するのをおすすめしています。理由は、1.妥当性が想像できる、2.指標として有効性が高い、の2点です。順に説明します。
1.妥当性が想像できる
経済産業研究所の論文では、「被引用数」、「引用数」、「発明者の数」が重要度を示すとしています。「発明者の数」が重要度を示す理由としては、次のような推定をしています。
発明者の数が多いということは企業がその研究を有望視し資源を重点的に投入していることを意味しており、それから生まれる特許の重要度にそのことが反映されているものと考えられる。
発明者が多いと多くの知識のベースから得た知識を利用して技術開発をおこなっていることとなり、価値が高い技術をうむことにつながっているのかもしれない。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/06j018.pdf
後者の「多くの知識ベース」については、必ずしもそうとは言い切れませんが、前者の「多くのリソースを投入している」という点については、重要度を定量的にあらわすものとして妥当と想像できます。
2.指標として有効性が高い
さらに論文では次のように述べています。
発明者数は、ある程度の年限がたってみないとわからない被引用数とことなり、出願の時点で知ることが出来るので、指標としての有効性も高い。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/06j018.pdf
これについては、以前のブログ「パテント情報の落とし穴」でも指摘したとおりです。被引用数などの経過情報では、古い技術が評価され、新しい技術は評価されません。また、例えばキーワードの出現パターンなどで評価する場合に比べ、「人数」という突っ込みどころの少ない指標は、信頼に値します。
人数をモニタすることの効果
少し横道にそれますが、こちらは、パワーデバイス等に使われるGaN関連技術を例に、発明者の数と技術の数(出願数)をプロットしたものです。1プロットが1社になっています。
概ね正の相関があるのですが(技術が多ければ人数も多い)、相関から外れた企業も出てきます。例えばサムスンは、技術の数では東芝と同程度ですが、開発者は2倍に迫る数になっています。開発リソースにこれほどの差があって、はたして勝てるのでしょうか?
さらにこちらは、同分野における開発者数の時系列変化です。先のサムスンは、過去2~3年で急激に人数を増やしたことがわかります。これらの情報は、技術の数をモニタしても発見できません。
「重要である」ことと「価値がある」は違う
はなしを戻しましょう。通常、事業戦略やイノベーションを目的とする場合の価値とは、商業的な価値を意味します。ですので、その技術が重要であることと、その技術に価値があることとは、分けて考える必要があります。
例えば冒頭の論文では、技術の重要性と価値についてはやや曖昧になっています。しかし、それでよいのでしょうか? この論文では、プラズマディスプレイ関連技術を題材にして、技術の重要性を検証しています。この時点から15年以上が経過し、現在では、プラズマディスプレイの商業的価値はほとんど失われています。技術の重要度は高いかもしれませんが、商業的な価値はゼロに近いということです。
その技術が重要だとわかったら、次に、どのくらい価値があるかを考えなければいけません。つまり、事業と結びつける必要があります。それには、今後起こり得る未来のシナリオとその技術が、どのような位置関係になるかを想定する必要があります。未来のシナリオにおいて、重要なポジションにあるかどうかが、価値を左右するということです。
この図は、異なる4つのシナリオ上に企業の技術をプロットし、4つの基本戦略(ヘッジ、ギャンブル、オプション、留保)をもとに、優先順位を検討したものです。例えば技術Dは、仮にどのシナリオが来たとしても一定のリターン が期待できる技術です。ヘッジ戦略を重視する企業にとっては、技術Dが最も価値の高いものと位置づけられます。
このように、技術の重要度は、単に重要かそうでないかの推定であって、必ずしも価値を示すものではありません。重要度をはかることは、膨大な情報に対し「足切りをしている」くらいに考えた方がよさそうです。
そうであるなら、足切りに多くの時間を割くべきではないと思います。経過情報を使ったり、高度な統計処理をしたりと面倒な作業をするよりも、単純明快な「開発者の数」で足切りしたらよいのではないでしょうか。むしろその後の、価値をはかるプロセスにこそ、時間とコストを割くべきなのです。
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