新規事業の創出や、次世代へ向けての成長戦略を考えるとき、自社の強みの上に何かを積み上げようとするでしょう。その方が、他社との差別化、持続的成長を考えたとき、有利な戦略となるからです。技術力に自信のある会社なら、自社の「コア技術」を中心に戦略を検討しますが、「ところで自分たちのコア技術って何?」となったことはありませんか。そこで今回は、「コア技術」について考えてみたいと思います。
コア技術戦略のための「コア技術」とは?
コア技術戦略のための「コア技術」とは、自社内における用途展開の中心となっている技術、と考えられます。ある技術が様々な用途に展開され、それによって自社が存続しているのなら、それは自社の持続的成長に大きく関与しているということです。そして重要なのは、「技術は人に紐付く」ということです。であるなら、技術の輪郭は人(あるいは集団)で定義できるでしょう。そして、それらの人や集団が、どのように他の集団とつながっているかを明らかにすれば、中心となっている人や集団を特定できます。これがすなわち、コア技術になります。問題は、これをどのように視覚化するかということです。
コア技術の特定と新用途探索
では、化学メーカーのX社を例に、視覚化してみましょう。
下図は、過去20年分のX社の技術情報から、開発者情報を取り出し、彼らのつながりを視覚化した図です。1つ1つの丸は、X社の1人の開発者です。丸が大きいほど、他者とのつながりが多い人物です。また、つながりの密度を計算し、グループ化をしています。異なるグループは、開発テーマに何らかの違いがあるということです。X社では、グループA、グループB、グループCなどが主要な開発グループとみられますが、グループBは、より他グループとのつながりが多様です。つまり、グループBが、X社のコア技術を示すグループであると分かります。
ここで、別の切り口からコア技術に迫ってみましょう。
下図は、X社の全開発者のPosi/Nega分析、ランキング上位者です。Posiの数が多いほど、他社技術への影響力(攻撃力)が大きい人物です。詳しくは、過去の記事をご参照ください。ここで、3位に位置するS氏は、先のグループBに属する人物です。上図で、グループBの中心部が赤くなっていますが、これは、S氏とその周辺人物(1階層目)を識別したものです。つまり、X社のコア技術のさらに中心部とも言えます。自社内の用途展開も多様で、かつ他社への攻撃力も大きい部分です。
では、このコア技術をさらに別の用途に展開するにはどうしたらよいでしょう?
下図は、S氏のPosi部分である113件のデータをリストにしたものです。赤い四角の部分が、攻撃先の情報です。この番号から、具体的に、攻撃先の会社名、用途、技術の詳細を調べることが可能です。これらの情報の中に、これまで視界に入っていなかった企業や用途があれば、用途展開(新規事業)の候補、ということになります。システマティックにたどっていくだけで、具体的な候補が出てくるので、X社以外の別の企業でも同じ様に分析することができます。
単なる用途探索では行き詰まる
上記は、シーズ起点で、新事業あるいは新規開発テーマの創出を狙ったもので、これだけでは行き詰まることになります。なぜなら、ニーズの視点が欠けているからです。上記のような分析で、用途に関する切り口が見えたところで、今度はその周辺市場が今後どうなるかを考える必要があります。ニーズ側からも考えるということです。
具体的には、ある用途・市場が見えたとして、今後その市場がどう変化するか未来シナリオを想定します。その未来シナリオにおいて、必要となる技術や能力は、現在持っている自社の技術や能力と比べて、どのような違いがあるか、その差分が今後の「開発テーマ」ということです。未来シナリオは1つではないので、そう単純ではありません。
コア技術とその用途展開を未来シナリオとセットで考える、これが私たちの考えるコア技術戦略です。
今回の分析は、情報分析ツール「Quark Apps」を使っています。Quark Appsは、情報の自動収集、前処理、ビジュアル化、機械学習(AI)をExcelから操作できるようにした、Quarkオリジナルのパッケージです。