空調メーカーA社と、空調を含む総合電機メーカーB社について、それぞれの開発体制を比較します。両社が公開している2020年の技術文献から開発者情報を抽出、人物ネットワークを可視化し分析をしました。
尚、ネットワーク図の原理については、過去の記事をご参照下さい。1つのドットは一人の開発者、ドットの大きさはつながりの数、矢印の視点は開発リーダー、矢印の終点は管理者、矢印の太さは関係の深さ、とお考え下さい。
つながりの密度を計算し、いくつかのクラスタに分けています。概ね、開発グループと考えてよいと思います。グループ名は、機械的に出力しているため、必ずしも適切ではない場合がありますがご容赦下さい。グループ名最後の括弧内数字は人数です。
全体像の比較
下図左がA社、右がB社の開発体制です。まず、開発人数ですが、A社の約700名に対し、B社が約2000名と、3倍近く開発リソースに差があることが分かります。また、空調をメインにするA社に対し、総合電機メーカーであるB社は、当然ながら空調以外の開発グループが多く、多様な技術領域へ取り組んでいることが分かります。とくにB社は、半導体開発及びその周辺技術に多くのリソースを投入しています。ただし、ここで言う開発人数とは、対象とする技術文献に、チームとして登録されている人数であって、単独で登録されている人物や、技術文献に関与していない開発者はカウントされていません。
両社の開発体制で特に注目されるのは、その協力体制の違いです。A社は各グループ間に一定のつながりがあり、グループ間の適度な連携が推察されます。一方B社は、グループ間の連携はほとんど見られず、高度に細分化された開発体制に見えます。これは、Appleとトヨタの開発体制の違いに良く似ています。A社が連携多様なApple、B社が細分化されたトヨタです。サッカー型の開発体制と、野球型の開発体制と言い換えてもいいかもしれません。今後、外部環境の変化が予想され、イノベーションが求められる業界なら、サッカー型の開発体制が適しているかもしれません。EVの環境変化に乗り遅れた感のあるトヨタを見れば、硬直した開発体制が弱みになることが予想されるからです。
A社の取り組み
A社の2020年の開発体制を詳しく見ていきましょう。下図の赤枠で囲った部分が、空調関連の主要なグループです。280名前後が空調関連グループであり、その他、フッ素化学品を軸にした材料関連グループも目立ちます。空調関連では、空調関連システム(AI含む)、冷媒、関連材料、モーター、インバーター、熱交換器、ファン、給湯器、というグループ構成になっています。それぞれ、10〜40名の開発者で構成されたグループです。中でも、空調システム、冷媒、フッ素化学品含む材料開発、この3つをコアとして、他のグループへ展開しているように見えます。
ここで、A社の過去の体制と比較してみます。下図は2018年のA社の開発体制です。赤枠は空調関連システムのグループですが、中身を見ると、空調の運転制御の他、音声コントロールのような開発が確認できます。しかしながら、2020年に見られるような機械学習や予測といったAIグループは目立っておらず、2018年以降に本格的に着手した(一定規模に達した)と思われます。また、造形用粉末など材料の応用開発グループはあるものの、2020年に見られる電池材料を明示したグループは目立っておらず、これも2018年以降本格着手したものと思われます。
B社の取り組み
次に、B社の開発体制です。下図の赤枠で囲った部分が、空調関連の主要なグループです。260名前後が空調関連グループと思われますが、比較的大きなグループであるモーター、インバーターグループは、産業用の大容量も含んでいると見られ、やや多目にカウントしているかもしれません。しかしながら、オレンジ枠で囲った半導体グループは、空調用途も含むと思われるものの、空調関連グループには含めていません。したがって正確なところは、グループ内の詳細に踏み込んだ調査が必要です。今回はそこまで踏み込まず、マクロ的に見ていきます。
B社の場合、給湯システムに50名前後が配分されています。給湯システムを中心に、冷暖房を含めてスマート化していこうという開発体制に見えます。これは、欧州で主流の温水セントラル暖房に対応した動きかもしれません。池田氏、佐久間氏を中心にしたグループです。同様に、モーター、インバーターへも50〜60名が配分されており、これらの効率化が、省エネ・環境対応の中心となっているようです。
また、空調含むITシステムのグループがありますが、機械学習や予測などのAI技術ではなく、温度管理や風向きなどの従来技術の延長に見えます。別に、需要分析などのグループがありますが、これは産業用のシステムであり空調に特化したグループではないようです。その他、換気をテーマにした20名前後のグループも確認できます。コロナ禍での需要に対応したものかもしれません。
磁気ヒートポンプに関する20名弱のグループも確認できます。次世代への取り組みとして、注目すべきかもしれません。
まとめ
A社の空調分野への取り組みは、システム、冷媒を中心に、関連材料、モーター、インバーター、熱交換器、ファン、給湯器と、バランスよくリソース配分されています。とくに空調システムは、AIを積極的に取り入れた次世代の内容になっています。また、グループ間の連携も見られ、将来の不確実性に対する柔軟性を持った開発体制と言えるでしょう。しかしながら、B社と比較し、モーターやインバーターの開発規模は小さく、また、独自の半導体デバイスを持たないことから、省エネ性能や調達面での問題が弱みになる可能性があります。
一方B社は、コアコンポーネントによる省エネ性能と、ヒートポンプ式暖房・給湯システムへの切り替えに対応した開発体制と言えます。ITシステムは従来の延長線にあり、A社と比較するとやや保守的に見えます。欧州の動向や、パンデミックの影響など、外部環境を反映した開発体制が組まれており、また、半導体デバイスへのリソース配分が多く、省エネ性能だけでなく調達面でのリスクも最小化できそうです。ただし、開発体制が細分化されており、A社と比較してグループ間の連携も少ないため、将来の不確実性への対応が遅れる懸念があります。
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