シナリオプランニング のプロセスでよくある誤解

シナリオプランニング では、不確定要素を軸にして、いくつかの未来シナリオを想定します。そして、それぞれのシナリオで必要となる能力や技術が、今後投資を検討すべき領域として戦略を作っていきます。しかしながら、このプロセスでよくある誤解があります。シナリオプランニングはよくわからない、どうもピンとこない、そういうご指摘をいただくことがありますが、その原因はこの誤解から来ているのではないかと考えています。今回は、この点について考えてみたいと思います。

シナリオプランニング のプロセスでよくある誤解

それは、マーケティング戦略でよく使われる「セグメンテーション」とシナリオが混同されてしまうことです。シナリオプランニング のプロセスで、なかなか議論が噛み合わない場合、ここを疑ってみる必要があります。未来の異なるケースについて話をしていても、聞き手の頭の中がセグメンテーションになっていると、どうしても噛み合いません。

何が決定的に違うかというと、未来シナリオの場合は、「不可逆」だということです。一度、別のシナリオが訪れたら、通常は、元の状態に戻ることは考えません。一方、セグメンテーションの場合は、AというケースもあればBというケースもある、あるいは、仮にAからBの一色になっても、またAに戻る可能性もあるということです。

少し抽象的ですので、具体的な例で考えてみましょう。

自動車の未来シナリオ

例えば、自動車の駆動方式は、今後どのように展開していくでしょうか。つまり、ハイブリッド(HEV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などの未来シナリオです。今回は「誤解」の話ですので、シナリオ自体はあまり深入りせず、突っ込みどころはありますがご容赦下さい。

まず、不確実性はどこにあるかというと、1つはバッテリーでしょう。今後、手頃なコストでガソリン車並の航続距離を実現できるかどうかです。ここが解決されれば、化石燃料が枯渇しようがしまいが、EV化が進むでしょう。トヨタでは全固体電池の開発が進められているようですが、否定的な意見もあり、実用化されるかどうかは不透明です。

トヨタが本気で取り組む「全固体電池」とは何か

もう一つは排ガス規制です。環境に対する社会の意識が高まって、規制が一段と強化されるのか、あるいは経済成長が優先されてしまうのか。規制が強化されれば、新しい技術が加速するでしょうが、そうでないなら、従来車の状態が長く続くことになります。現在アメリカでは、この点で政府と州が対立する場面もあり、不透明な状況です。

連邦政府のZEV規制潰しに反発するカリフォルニア州が、政府を支援するメーカーの新車購入を停止

以上を骨格としてシナリオをつくるとこうなります。

自動車の未来シナリオ(骨格)

それぞれのシナリオが現実となった場合、どのような自動車が普及するでしょうか。駆動方式をのせてみます。

自動車の未来シナリオ

因みに、国土交通省の資料によると、2017年時点での世界の自動車生産台数は、実に96%が従来車ということです。したがって左下のシナリオは、「現在の延長」ということになります。

EV/PHV普及の現状について

ここでシナリオプランニングとセグメンテーションの話に戻りましょう。シナリオプランニングでは、排ガス規制が強まって、バッテリーコストが下がった未来では、従来車からEVへの代替が加速し、EVが主要な駆動方式になると言っています。ここから、また従来車へ戻る動きはほとんど無い、不可逆だということです。従来車に乗り続ける人はいるでしょうが、少数派のマニア向け、ということです。マーケティング的には、こうした未来でも、従来車をつくり続けるということもあるでしょう。しかし、それはマニアという「セグメント」を狙っているということであって、未来を示すものではありません。

構造的な変化を察知する

おわかりいただけたでしょうか。つまり、どのシナリオでも、セグメンテーションがあります。どのシナリオにも従来車があっていいのです。現在でも、EVも、HEVも、FCVもありますね。でも圧倒的に従来車が占めている。シナリオはそのことを表現しています。

業界の中にどっぷりとつかっていると、大きな構造的な変化に気付かない場合があります。気付いたときには、レッドオーシャンになっていたり、市場そのものが無くなっていたりします。ガラケーとスマホ、液晶と有機EL、こういった世界でも急激な変化が起こりました。変化のシグナルをできるだけ早く察知する、それがシナリオプランニングであって、セグメンテーションとは本質的に違うものなのです。

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