前回、スマートグラスの未来を決める不確実性として、「技術の達成度」と「社会の態度」の2つを選びました。引き続き、スマートグラスの未来について、考えてみます。
スマートグラスの4つの未来
2つの不確実性を軸にした、4つのシナリオを見ていきましょう。
【シナリオ1】技術は停滞、社会は肯定的
コンセプトやデザイン性、魅力的なコンテンツの提供により、限定的な機能でありながら、低コストを武器に、個人を中心として普及が進む未来。コンシューマ用途が主体となるシナリオです。スマートフォンのセカンドディスプレイとして機能するイメージから「セカンドディスプレイ」シナリオと命名しましょう。
【シナリオ2】技術は進展、社会は肯定的
技術的トレードオフを打破する技術が開発され、これにより装着の違和感が薄れ、さらにセキュリ ティと利便性のバランスに理解が示されて、産業から個人まで用途が広がった未来。次世代コンピューティングのプラットフォームとなるシナリオです。コンピューティングが次の段階へ移行するイメージから「ネクストジェネレーション」シナリオとしましょう。
【シナリオ3】技術は進展、社会は否定的
技術的トレードオフを打破する技術が開発されるものの、装着の違和感やプライバシーに対する社会のハードルが克服できない未来。産業用途が主体となるシナリオです。仕事を支援する道具をイメージし「ワークアシスト」シナリオとしましょう。
【シナリオ4】技術は停滞、社会は否定的
技術的なブレークスルーが登場せず、社会的な認知が進まない未来。極めて特殊な用途に、専用の端末が用意されるか、他のウェアラブル端末に置き換えられる未来。極めてニッチに留まるシナリオです。分かりやすく「スーパーニッチ」シナリオとしましょう。
4つの基本戦略
不確実性の軸を決め、複数の未来の輪郭が見えてくれば、あとは、その未来にどう対処するかということです。まずは、各シナリオで必要となる技術や能力を整理しましょう。
例えば、「セカンドディスプレイ」シナリオでは、処理能力よりは、小型化と低コスト化かもしれません。また、「ワークアシスト」シナリオでは、多少大きくても、処理能力と信頼性が重要になるかもしれません。「ネクストジェネレーション」シナリオでは、異次元の電力性能が必要となり、現在の延長技術では対応できないかもしれません。これらのうち、あなたがまだ持っていないものが、今後の投資領域(候補)となります。
基本戦略は4つ。どのシナリオでも一定のリターンを狙う「ヘッジ戦略」、いずれか1つのシナリオに狙いを定める「ギャンブル戦略」、シナリオに合わせて投資先を切り替える「オプション戦略」、いまは留保する「留保戦略」の4つです。どの戦略をとるかについて、正解はありません。正解はありませんが、誰かの「予測」にもとづいて意思決定するよりも、遥かに意味のある検討とは言えないでしょうか?
シナリオの考察
シナリオプランニングでは、各シナリオが、等しく起こる可能性があるとして、戦略を立てていくことが基本ですが、ここでは、理解を深めるために、今どのような状況にあるのか、今後どうなりそうかをシナリオにのせて考えてみます。
Google Glassの販売中止は、「社会の態度」に関する先行指標だった可能性があります。だとすると、上半分のシナリオは、今は否定されている状況かもしれません。つまり、現在「スーパーニッチ」か「ワークアシスト」にあると言えます。一方、Magic Leap社を代表とするLightfield技術の実用化は、技術の進展に関する先行指標かもしれません。だとすると、今後右向きのシナリオへ進む可能性があります。合わせて考えると、当面は、「ワークアシスト」シナリオが濃厚に見えます。
現時点では、スマートグラスの未来として、産業用途が主体となる「ワークアシスト」シナリオが濃厚と考察しました。いずれにしても、シナリオが変化するタイミングを可能な限り早く察知して、戦略を見直すことも重要です。そのために、シナリオプランニングでは、先行指標を整理しておくことを推奨しています。
例えば、上半分のシナリオへ移るタイミングとして、コンシューマを惹きつける魅力的なプロダクトやサービスが社会の意識を変えるかどうか。Appleや関連スタートアップの発表や新製品に対し、社会がどう反応するかはウォッチしておくべきでしょう。また、右半分のシナリオへ移るタイミングとして、破壊的な技術が実用化されるかどうか。例えばMagic Leap、NVIDIA、QD Laser他とは、連携の道を探ってもよいかもしれません。
いかがでしたでしょうか。シナリオを持っておくことで、日々リリースされる情報や企業の動きが、未来を指し示す意味を持ってきます。シナリオが決定的になってからでは、もはや選択肢は限られたものになってしまうのです。
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