【競合分析の方法】定番フレームワークだけで勝てますか?

中長期的な戦略を立てなければならないとき、あるいは、今後の不透明感から戦略を見直さなければならないとき、やはり競合の動きは気になるでしょう。仮に、目指すべき方向性が定まったとしても、そこに巨大な競合の存在や、思いもよらない競合の出現があるかもしれません。

競合分析の方法は、定番のフレームワークとしていくつかあります。例えば、3C分析、4P分析、SWOT分析などです。しかしながらこれらのフレームワークは、ほとんどの企業で取り入れられている上に、基本的に顕在化した情報をもとにしていて、しかも定量化(数値化)できないものを含みます。これでは、なかなか差がつかない上に、意思決定に様々なバイアスがかかってしまいます。

そこで今回は、テクノロジー企業向けになりますが、もう一歩踏み込んで、顕在化していない(内部情報に近く)、かつ定量的な競合分析の方法について考えてみたいと思います。

一歩踏み込んだ競合分析の方法とは

企業の価値は「人材」にあるといいます。であるなら、人材をどのように配置しているかが分かれば、その企業の戦略が見えてくるはずです。例えばテクノロジー企業なら、開発人材(開発リソース)をどの分野に、何人くらい配置しているか分かれば、その企業の戦略がかなりの精度で見えてきます。

それでは、開発リソースの配分といった内部情報をどのように入手するかですが、これは企業が公開している論文などの技術情報を利用します。

これらの情報には、開発者の氏名が登録されています。また大抵の場合、どのようなテクノロジーに関するものかという、インデックスが付与されています。これらの情報をソフトウェアで集計し、可視化していきます。

こうして定量化した情報をもとに、自社と比較すれば、どの分野でどのくらいの差があるのか、リソース配分の最適化で対応できるレベルなのか、提携やM&Aなどの大胆な施策が必要かなど、経営レベルでの検討が可能となります。

自動運転分野で競合分析してみる

今回は、自動運転(Autonomous Vehicle)に関する、比較的新しい(2018年以降の)米国の技術文献約1600件を使いました。Companyに企業名(共同は削除)、Authorに開発者の名前、CategoryやSubcategoryにテクノロジー分野のインデックス等があります。

ここで、例えばトヨタ自動車の、位置や姿勢制御技術(G05D1)に関するものだけをフィルタしたものがこちらです。全部で127件あるうちの抜粋です。

開発者名がずらずらと並んでいますが、これをさらに集計したものがこちらです。全部で87名の開発者の上位抜粋です。つまり、「トヨタ自動車はこの期間、姿勢制御技術に87名の開発者を配置していた」という情報が分かります。

これを全ての企業、全ての分野について処理すると、こうなります。縦に企業名、横にテクノロジーのクロス集計になっています。下から3行目の、トヨタ自動車とG05D1がクロスするところが”87”となっています。上記集計結果と一致しています。同じくUberは124人、Waymoは77人、GM76人、一方Hondaは23人となっており、かなりの差があることが分かります。

このマップをさらに引いて見てみましょう。開発者の数で定量化することによって、これらを機械学習にかけることができます。各企業のリソース配分を学習し、似たようなパターンを持っている企業どうしをひとくくり(クラスター)にします。ここで、緑、青、オレンジのクラスターは、それぞれ類似したリソース配分を持つ企業群です。つまり競合ということになります。

自社が属するクラスターでは、競合との比較ができます。自社の戦略に合わせ、リソース配分の最適化の検討ができるでしょう。また、異なるクラスターの企業とは、その差分を認識した上で、提携やM&Aの検討が可能でしょう。

情報処理によって一歩踏み込んだ分析を

まずは定番のフレームワークを実施するにしても、それだけでは十分ではありません。より良い戦略立案、より速い意思決定のために、分析能力においても差別化をはかるべきでしょう。情報処理能力が上がり、大量に処理することでしか見えなかったものが、いまは簡単に見れるようになりました。一般に公開されている情報からも、処理の仕方を工夫するだけで、企業の内部情報が透けて見えることが分かります。

今回の分析は、情報分析ツール「Quark Apps」を使っています。Quark Appsは、情報の自動収集、前処理、ビジュアル化、機械学習(AI)をExcelから操作できるようにした、Quarkオリジナルのパッケージです。