素晴らしい技術を開発しても、それが商売に結びつかないという問題があります。「商売にならないのに、素晴らしい技術と言えるの?」というのは置いといて、どこに問題があるのでしょうか?
企業の研究者、開発者は、自分たちは何のために研究や開発をしているのか、そこを見失わないようにしたいものです。技術を通して世の中の課題を解決する、人の役に立って、その対価としてお金をいただく、つまり商売にならなければ、その技術がどれほど複雑で手間のかかるものでも、無価値だということです(大学の研究はまた別です)。
そこで今回は、企業の研究者、開発者こそ、持っておかなければならない視点、ビジネスモデルについて、考えてみたいと思います。
研究開発の前にビジネスモデル
研究開発の前に、仮にその開発ができたとして、どうやって収益を上げるのかをデザインしておく必要があります。これは、上層部の誰かが考えればいいこと、というわけではありません。研究開発の過程では、その仕様、製造方法や信頼性に至るまで、様々な場面で「選択」をしなければなりません。その選択の積み重ねが、最終プロダクトなわけですが、選択の場面で共通の価値観(ゴール)が無いと、できあがったものは極めて中途半端なものになってしまいます。それを避けるためには、開発の前にビジネスモデルを設計し、関係者間で共有しておく必要があります。
とは言え、新規市場や新技術が関わるために、ビジネスモデルが見えないというケースがあるかもしれません。その場合には、想定されるビジネスモデルを複数設計し、リスクヘッジしておくことが重要です。ではどうやってビジネスモデルを複数つくるかですが、それは、外部環境の変化を複数想定することによって可能です。これはシナリオプランニングのフレームワークが役に立ちます。つまり、シナリオプランニング→ビジネスモデル→研究開発、という順番でフレームワークを組み合わせていきます。
シナリオプランニングは今回のテーマではありませんので、ビジネスモデルにフォーカスしますが、複数の外部環境が想定できれば、その外部環境での顧客セグメントがどうなるのか、顧客とはどういう関係性か、提供する価値は何か、・・といった項目が、具体的に想像できるようになります。つまり、各外部環境(シナリオ)ごとに、ビジネスモデルキャンバスを作ることができます(顧客の解像度が違うリーンキャンバスでも同様です)。
さらに、各ビジネスモデルの中で、どのような技術が足りないのか、どのような技術は共通して使えるのか、といった検討ができるようにり、ビジネスモデルに沿ってかつ将来リスクに備えた研究開発の姿が明確になってきます。これを共通認識とし、全ての研究開発者が選択を積み上げていけるように、マネジメントすることが重要です。
開発者が忘れがちな視点
ビジネスモデルキャンバスについては、もしご存じない方は検索していただきたいのですが、主に企画やマーケティングで使われるフレームワークです。定番のフレームワークなので、これを導入したからと言って他社と差がつくわけではありませんが、研究開発の現場で使うことに、重要な意味があると思っています。
ビジネスモデルキャンバスによって、技術を含め、ビジネス全体が俯瞰できるわけですが、とくに開発者が忘れがちなのは、「顧客」の視点です。どのような顧客に、どのような関係性で、どのような価値を提供するのか。それによってどう収益が上がっていくのか。ここを、わかりやすく整理していきます。
ビジネスモデルキャンバスの作成は、通常、ポストイットやホワイトボードなどを使って、コンサルタントがファシリテーターとなり、何人かのグループでつくっていきますが、開発の現場でそのような余裕はありません。そこで、弊社では、ブラウザ上で簡単にビジネスモデルの検討ができるツールを用意しています。
ビジネスモデルキャンバスの作成で重要なのは、1.検討すべき項目の洗い出しとそれらのつながりの可視化、2.複数のメンバーが共同で簡単に作業できる、3.結果を共有できる、などが考えられます。弊社ツールでは、右側に項目名をテキストで入力すると、その項目がリアルタイムで左側のマップに描画されます。
下図は、ネスプレッソのビジネスモデルについて、ポイントとなる項目をランダムに上げたものです。項目同士を->でつなぐことによって、項目間のつながりも描画できます。各項目は、磁石とバネの物理モデルによって、適度な間隔で勝手に配置されます。
ここに、ビジネスモデルキャンバスを構成する、9つの切り口(顧客、顧客との関係、価値提案、チャネル・・)を貼り付けます。色の属性を付けて目立つようにします。この切り口に沿って、先程あげた項目を分類していきます。もし見落としていたものがあれば、ここで追加してください。
上部バーのfrictionを100%に調整すると、全ての項目が固定されます。各項目を9つの切り口に配置すれば、ビジネスモデルキャンバスの完成です(一般的には、9つの枠がありますが割愛)。これを、外部環境(シナリオ)ごとに作成し、差分を確認します。外部環境によって、顧客が変われば、あるいは、提供する価値が変われば、必要な技術開発も変わってくるというわけです。
ビジネスモデルデザインは開発とセット
ビジネスモデルなんて俺の仕事じゃない、と考えておられる方もいるかもしれません。しかしながら、技術だけで差別化することがいかに難しいか、痛感されているのも事実ではないでしょうか。
ならば、もはやビジネスモデルデザインと開発はセットと考えて、ここに仕切りを設けるのはやめるべきでしょう。開発者自らが、外部環境を分析し、ビジネスモデルを考え、それにもとづいて技術開発を進めていったとき、この国の復活があるのかもしれません。
今回の分析は、情報分析ツール「Quark Apps」を使っています。Quark Appsは、情報の自動収集、前処理、ビジュアル化、機械学習(AI)をExcelから操作できるようにした、Quarkオリジナルのパッケージです。