人工知能(AI)と雇用の未来を考える

ガートナーのテイ氏によると、「2020年以降、AIで生まれる雇用は失う雇用を上回る」とのことです。

https://japan.zdnet.com/article/35136572/

この記事の中で、「人がAIを受け入れるかどうかも大切」という指摘があります。これはつまり、AIに対する社会の態度によって、未来のシナリオが変わってくるというとではないでしょうか。今回は、過去数年のニュース記事を使って、AIに対する社会の態度がどう変化したかについて、分析したいと思います。

今はAIに対してポジティブ

Google Newsから、AIと雇用に関する記事(日本語のみ)を抽出しました。2019年1月から現在までの約200件と、3年前、2016年同時期の約200件を分析対象とします。まずは、キーワードの簡単な頻度解析の結果です。3年前は、「ロボットと人間」という対立軸が鮮明になっています。雇用が奪われるという論調で、AIに対してネガティブな態度に見えます。

2016年前半のニュース記事

一方、直近の論調はちょっと違います。企業はAIを使った自動化によって生産性を上げる、政府は人口減少という問題をAIの生産性に期待する、といった具合です。対立的な意味合いの「人間」というワードはあまり見られなくなりました。やや日本の事情に偏っていますが、概ねポジティブな態度です。

2019年前半のニュース記事

3年前に今を示す兆しはあったのか

2016年のデータをもう少し詳しく見てみましょう。以下は、キーワードのつながりの全体図です。3年前の数百件の記事を、数個の塊に抽象化したようなイメージになります。

2016年前半のニュース記事(キーワードのつながり)

まずは、ロボットを中心にした塊と、人間を中心にした塊があります。仕事が増えるのか?奪われるのか?という議論です。

ポジティブな兆しはなかったのでしょうか?もう少し見てみます。「735万人の雇用が奪われる」といった具体的な数字(シナリオ)があります。ネガティブなシナリオです。

この一方で、「生産性という視点がいる」というものもあります。AIやロボティクスの導入により、生産性が上がるというポジティブな切り口を示しています。これは、現在の生産性に目を向けるという、比較的ポジティブな社会の態度を示す兆しとは言えないでしょうか。

今後を左右する軸は?

例えば、もし3年前にいたなら、その後の未来を左右する軸として、AIに反発する社会か(雇用を守ることを優先)、あるいはAIを許容する社会か(生産性を優先)を設定できたかもしれません。これにより、少なくとも2つのシナリオが描けることになります。今のデータを見ると、許容する社会に向かっているようです。では現在のデータには、何か兆しがあるでしょうか。2019年のデータを見てみましょう。2016年と同じく、いくつかの塊に抽象化されています。

2019年前半のニュース記事(キーワードのつながり)

企業が積極的にAIやロボティクスによって自動化を進めている状況が分かります。一方で、中央下の塊を拡大してみます。政策に関連する記事の中で、就業者の減少をAIの生産性で相殺するような試算があります。つまり、政策の試算に、AIの生産性が組み込まれてきているとうことです。これは、次の未来を左右する兆しかもしれません。政府政策が、AIに対してポジティブか、ネガティブかという軸です。現在は人口減少を相殺する策としてポジティブなものの、導入が進んだ先、どうなるかわかりません。AIに課税すべきという議論もあります。

いかがでしたでしょうか。AIやロボティクスは、今後産業に大きなインパクトをもたらすでしょう。しかしながら、その過程では、いくつかの異なるシナリオを経るものと考えます。その場合、シナリオプランニングが有効ですが、ある変化が決定的になった場合には、シナリオの軸をブラッシュアップする必要があります。かすかな兆しを捉えて軸を見直すということですが、ある切り口における対立する意見、コインの裏と表、にヒントがありそうです。そこには、確かに不確実性がある、ということですから。今回は、未来を左右する兆しを捉えることはできないか、検討してみました。

今回の分析は、情報分析ツール「Quark Apps」を使っています。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。丁寧にご説明させていただきます。お問い合わせ