新規事業創出において、多くの企業が「未来からの逆算(マーケット・イン)」と「手持ち資産の活用(プロダクト・アウト)」の二項対立に苦しんでいます。ゼロからの開発はリスクが高すぎ、既存技術の転用は新鮮味に欠ける——。
本記事では、このジレンマを解消するAI活用ワークフローを公開します。鍵となるのは、既存技術を完成品ではなく、未来市場への「入場券(エントリー・チケット)」と再定義する思考法です。
神経保護技術を例に、AIがいかに専門用語の壁を破壊し、異業種への「強制転用」と、真に投資すべき「新規開発テーマ」を炙り出すのか。R&D戦略をコストから戦略的投資へと変貌させる、2026年最新のAI戦略立案メソッドを詳説します。

目次
2月、戦略の「実行性」が問われる季節に
前回の記事では、5G/6Gの普及といった「確定的なトレンド」だけを追う戦略が、いかに同質化を招き、自社を消耗戦へ追い込むかについて警鐘を鳴らしました。おかげさまで多くの経営層やR&D責任者の方々から、「不確実性をどう扱うべきか、ようやく光が見えた」という反響をいただきました。
しかし、同時に現場のリーダーの方々からは、切実な悩みが寄せられています。 「未来のシナリオを描いても、自社の技術資産との距離が遠すぎて、結局『ゼロからの新規開発』という途方もないリスクに尻込みしてしまう」 「既存技術の転用(プロダクト・アウト)を検討しても、従来市場の延長線上に留まり、未来を切り拓くような破壊力が生まれない」
これらは、新規事業創出における「マーケット・イン(未来からの逆算)」と「プロダクト・アウト(資産の有効活用)」の不毛な二項対立です。2月、次年度に向けた計画の最終承認が迫る今、私たちが提案するのは、AIを「文脈の翻訳者」として使い、この対立を解消する「ハイブリッド型シナリオ戦略」です。
既存技術は、未来市場への「入場券」である
なぜ、既存技術の転用は「ワクワクしない」のでしょうか。それは、多くの企業が既存技術で未来を「完成」させようとしているからです。
しかし、発想を転換してください。既存技術は、完成品である必要はありません。それは、不確実な未来という名のカジノへ入るための「入場券(エントリー・チケット)」なのです。
全く新しい技術開発(知の探索)は、膨大な時間とコストを要し、成功確率は極めて低いのが現実です。一方で、既存技術をAIによって再定義し、全く異なる文脈へ「強制転用」するアプローチは、極めて低コストかつ短期間で実行可能です。
まず既存の資産を「入場券」として使い、いち早く未来の市場に潜り込む。そこで顧客の生きた反応に触れながら、本当に必要な「勝利条件(次世代技術)」を特定し、精度の高い投資を行う。この「入場券」と「勝利条件」を明確に分ける思考法こそが、R&Dをコストセンターから戦略的プロフィットセンターへと変貌させます。
実践プロセス:AIによる「バックキャスト・プラス」
では、具体的にAIをどう活用するのか。私たちがクライアントに提供しているワークフローの一端を公開します。
ステップ1:機能の抽象化と「強制転用」
まず、自社技術を専門用語の檻から解放します。 例えば、「神経障害の予防・改善剤(ラクトン化合物等)」というアセットをAIに投げ込みます。AIはこれを「医療品」としてではなく、「神経伝達のノイズを低減し、システムの安定性を担保する機能」へと抽象化します。
この抽象化された機能を、前回の記事で描いた「4つの未来シナリオ」に強制的に衝突させます。
- 例: 6Gによる「超・遠隔操作社会(シナリオ1)」に衝突させると、AIはこれを「遠隔手術医の脳疲労を防ぎ、操作精度を維持するための『通信インフラ付随型メンテナンスサプリ』」という、製薬業界の常識を超えた転用案を提示します。
ステップ2:AIによる「差分分析(Gap Analysis)」
ここからが本手法の真骨頂です。強制転用案が出たところで、AIにさらに高い要求を突きつけます。
「この転用先市場(例:遠隔操作メンテナンス)で圧倒的な覇者になるために、現在の技術に足りない『理想のピース』を定義せよ」
AIは冷徹に、既存技術の限界を指摘します。「化合物による静的なケアだけでは不十分だ。リアルタイムで神経の負荷を検知し、適切なタイミングで投与を促す『非侵襲モニタリング技術』が組み合わさって初めて、この市場を独占できるプラットフォームになる」といった具合です。
ケーススタディ:神経ケア技術が炙り出す「真の新規開発テーマ」
このプロセスを、具体的な「神経障害改善剤」の例で見てみましょう。
具体例として、「神経障害の予防・改善剤(ラクトン化合物等)」というアセットを使い、AIがどのように「転用」と「開発」を同時にデザインするかを見てみましょう。
AIはまず、この技術を専門用語から解き放ち、「神経伝達の安定化とノイズ低減」という本質的機能へと抽象化します。その上で、前回の記事で提示した「不確実な未来シナリオ」に衝突させた結果、以下の戦略的ポートフォリオが導き出されました。
| 未来のシナリオ | 入場券(既存技術の転用案) | 勝利条件(AIが特定した新規開発) |
|---|---|---|
| A. 超・効率社会 (オープン×機能重視) | 精密労働者の神経保護剤 遠隔操作等に従事するプロ向けの「ダウンタイム削減」サプリ。 | 神経疲労のリアルタイム予測 AI脳負荷を可視化し、適切な投与タイミングを通知するシステム。 |
| B. 情緒・感性社会 (オープン×情緒重視) | 五感鮮鋭化リラクゼーション剤 デジタル疲れを癒やし、感覚を深く味わうための「ウェルビーイング剤」。 | 感度測定ウェアラブル技術 ユーザーの知覚感度を測定し、状態に合わせて成分を最適化する技術。 |
ここで重要なのは、AIが既存技術を「その市場へ速やかにエントリーするための武器(入場券)」として使いつつ、その市場で覇権を握るために不可欠な「足りないピース(勝利条件)」を同時に特定している点です。
例えば「シナリオB」では、既存の化合物(剤)だけで勝負するのではなく、個人の知覚状態を測定する「デバイス」を新規開発し、セットで提供することこそが、模倣困難な独自のプラットフォームを築く鍵になるとAIは示唆しています。
「何を作るべきか」が、妄想ではなく「市場参入という具体的アクション」の延長線上で特定されるため、投資判断の精度とスピードは劇的に向上します。

コンサルティングの死角:なぜ、この発想が生まれないのか
従来の戦略コンサルティングは、過去の市場データや競合分析には長けていますが、「自社技術の本質を異業種へ接続する」というクリエイティブな推論には限界がありました。また、技術コンサルティングは、スペックの向上には熱心ですが、「社会シナリオの変化に伴う意味の変容」を見落としがちです。
私たちは、AI(生成AIおよび大規模言語モデル)を、単なる効率化ツールではなく、「専門用語のバイアスを破壊する思考の加速器」として位置づけています。
「神経障害の薬」を「通信インフラの構成要素」へと読み替える。この驚きを伴うジャンプこそが、コモディティ化した戦略から抜け出す唯一の道です。
AIと共に、不確実性の海へ
新規事業の創出は、ギャンブルであってはなりません。しかし、確実なものだけを追う臆病な姿勢では、未来は拓けません。
AIによる強制転用で「入場券」を安く手に入れ、その上で「勝利条件」に向けて集中的に投資する。このハイブリッドなアプローチこそが、2026年以降のR&D戦略のスタンダードになるでしょう。
自社の研究所に眠っているその技術文献。それを専門用語の檻から解放したとき、どんな未来の扉が開くでしょうか。 私たちは、最新のAIワークフローと戦略的知見を武器に、貴社の技術資産に「新たな意味」を吹き込み、誰も見たことのない市場へのロードマップを描くパートナーです。
次年度の計画に、まだ「ワクワク」が足りないと感じているなら。 その技術をAIに解体させ、未来への入場券を手にしてみませんか。
