AI需要の不確実性に対し、化学メーカーは開発ポートフォリを再検討すべきか

本報告書は、国内総合化学メーカーの研究開発部門向けに、量子コンピュータの進展とエネルギー転換の加速という大きな変化がもたらす未来シナリオと、それに対応するための戦略的投資計画を提示します。変化の激しい時代において、特定の未来像に固執するのではなく、複数のシナリオが起こりうることを前提に、柔軟性のあるアプローチを講じることが不可欠です。

そのため、本報告書では、シナリオオプション戦略を採用し、個々の未来像の実現可能性に左右されることなく、変化に対応できる技術開発を推進することを推奨します。具体的には、量子化学計算の高度化、新規材料設計、製造プロセスの革新、高機能製品の創出、再生可能エネルギー関連素材の開発など、幅広い分野への投資を検討します。これらの投資は、それぞれの未来像の実現に貢献するだけでなく、変化への対応力を高めるための基盤となります。

本報告書では、量子化学計算ソフトウェア市場の動向、化学業界の研究開発費の推移、特許出願件数の変化、再生可能エネルギー関連製品の売上高構成比などの情報を活用し、これらの変化を継続的にモニタリングすることの重要性を強調します。これらの指標を参考に、必要に応じて投資戦略を柔軟に修正し、競争優位性を確立することを目指します。

AI需要の不確実性に対し、化学メーカーは開発ポートフォリを再検討すべきか

米テック株が急落し、特にエヌビディアは好決算発表後も3%安と、7カ月ぶりの大幅な値幅を記録しました。AI投資への懐疑論や、著名投資家ダリオ氏の発言、雇用統計の発表などにより、金融市場の不安心理が高まっています。専門家は、さらに株価が下落した場合、システマティック投資戦略による売り圧力が加わる可能性を指摘しています。

そこで今回は、「AI需要の不確実性に対し、化学メーカーは開発ポートフォリを再検討すべきか」という課題設定でシナリオプランニングを進めてみたいと思います。

前提条件は以下のとおりです。

  • 誰にとってのシナリオプランニングか(クライアント): 国内総合化学メーカーのR&D部門
  • 想定する未来: 2030年

まずは、このテーマを考える上で、キーとなる外部要因について考えていきましょう。

 

シナリオドライバーの特定

課題設定:AI需要の不確実性に対する化学メーカーの開発ポートフォリオ再検討

2030年を想定し、AI需要の不確実性に対する化学メーカーの開発ポートフォリオ再検討という課題設定の未来を決定付ける要因を特定するため、以下の検討ステップに基づき、シナリオドライバーを選定する。

1. 未来を左右する外部要因(候補)

  1. AIアルゴリズム進化速度: 進化が加速すれば、AIへの化学物質の必要性が減少しうる。
  2. AI搭載デバイスの普及率: 普及が進めば需要は増加するが、普及が鈍化すれば需要は限定的になる。
  3. データセキュリティとプライバシー規制: 規制が強化されれば、AI利用が進まず、化学物質の需要も減少する。
  4. 量子コンピュータの実用化: 実用化が進めば、既存のAIアルゴリズムが陳腐化し、新たな化学物質の必要性が生まれる可能性もある。
  5. 代替技術(有機EL、MEMS等)の台頭: AIに関連する機能を持つ代替技術が登場し、化学物質の需要を奪う。
  6. 宇宙開発の進展: 宇宙空間でのAI利用が拡大し、特殊な化学物質の需要が発生する。
  7. エネルギー転換の方向性: 再生可能エネルギー中心への転換が加速すれば、バッテリー材料関連の化学物質の需要が急増する。
  8. パーソナライズドメディシンの普及: AIを活用した個別化医療の進展は、診断薬や治療薬の需要を増加させる。
  9. メタバースの普及度合い: メタバースの利用が広まれば、AR/VRデバイスに関連する化学物質の需要が増加する。
  10. 合成生物学の発展: AIと連携した物質設計が実現し、既存の化学製品を代替する新たな物質が生まれる。

2. 不確実性度合いとインパクト評価

要因 不確実性度合い(1~5) インパクト(1~5)
AIアルゴリズム進化速度 4 3
AI搭載デバイス普及率 3 3
データセキュリティ規制 4 2
量子コンピュータ実用化 5 4
代替技術の台頭 3 3
宇宙開発の進展 2 1
エネルギー転換の方向性 3 5
パーソナライズドメディシン 2 4
メタバース普及度合い 3 2
合成生物学の発展 4 3

(1:非常に低い、5:非常に高い)

3. シナリオドライバー選定

上記評価に基づき、不確実性が高く、インパクトの大きい要因から、互いに独立したシナリオドライバーを以下の2つを選定する。

  1. 量子コンピュータの実用化: 不確実性が非常に高く(5)、インパクトも大きい(4)。量子コンピュータが実現すれば、既存のAIアルゴリズムは陳腐化し、新たな化学物質の需要が発生する可能性がある。また、量子化学計算の精度が向上することで、AIを活用した物質設計の精度が向上し、既存の化学製品を代替する新たな物質が生まれる可能性もある。
  2. エネルギー転換の方向性: 不確実性は中程度(3)だが、インパクトが非常に大きい(5)。特に、再生可能エネルギー中心への転換が加速した場合、バッテリー材料関連の化学物質の需要が急増する。逆に、化石燃料中心の利用が継続された場合、エネルギー関連の化学物質の需要は限定的になる。この方向性は、エネルギー政策、技術開発、社会動向など、様々な要因によって左右されるため、不確実性が高い。

これらのシナリオドライバーを組み合わせることで、化学メーカーは、量子コンピュータの進展に対する技術対応と、エネルギー転換の方向性に基づいたポートフォリオ戦略を立案する必要がある。

それでは、この2つのシナリオドライバーを骨格に、その挙動に応じた4つのシナリオを想定します。よりリアリティを出すために、物語形式にしてみます。

 

シナリオ骨格

マトリクスにまとめると、以下のとおりです。

量子コンピュータの実用化(ネガティブ) 量子コンピュータの実用化(ポジティブ)
エネルギー転換の方向性(ポジティブ) シナリオD:グリーンブーストとレガシーシフト – 量子コンピュータは限定的だが、エネルギー転換は再生可能エネルギー中心へ。既存技術で次世代電池材料の生産能力を増強し、グローバル競争力を確立。 シナリオA:量子革新とグリーンフロンティア – 量子コンピュータが化学計算を凌駕し、高効率な太陽電池や次世代バッテリー材料の探索を加速。再生可能エネルギー中心へのシフトを政府支援と技術革新で推進。
エネルギー転換の方向性(ネガティブ) シナリオB:停滞と衰退 – 量子コンピュータの失敗とエネルギー転換の停滞が重なり、化学メーカーは経営悪化、市場を海外勢に奪われた。 シナリオC:ニッチ戦略と共存 – 量子コンピュータはニッチな用途に定着する一方、エネルギー転換は化石燃料中心が継続。高機能医薬品開発に注力し、限定的な成功を収めた。

戦略検討に入る前に、各シナリオで必要になるであろう技術開発について整理してみましょう。

 

各シナリオにおける技術開発リスト

シナリオA (量子革新とグリーンフロンティア) シナリオB (停滞と衰退) シナリオC (ニッチ戦略と共存) シナリオD (グリーンブーストとレガシーシフト)
1. 量子化学計算アルゴリズムの高度化 (変分量子固有値法等の改良、エラー耐性向上) 1. 既存シミュレーションソフトウェアの改良 (量子計算の代替として性能向上を図る) 1. 高精度分子動力学シミュレーション (少量多品種化に適応、精密な物性予測) 1. 高効率リチウムイオン電池材料合成技術 (スケールアップ、低コスト化)

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